コラム「風」令和7年11月

秋を堪能

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秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 10月上旬、秋田県町村会の行政視察で京都府伊根町を訪問してきました。「あるもの」の活用視察です。伊根町の漁家は漁船を格納する「舟屋」を有していますが、その活用状況を参考にするためでした。無いものねだりではなく有るもの探しが大切で、その活用アイデアがさらに大切という点、改めて認識して帰ってまいりました。
 その視察途中の出来事ですが、山の方から「ケーンケーン」と鳴き声が聞こえました。私は聞いたことがない鳴き声でしたので、説明の方に伺ったところ、鹿の鳴き声とのこと。ふと百人一首の歌人猿丸太夫の「奥山に もみじ踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」という歌を思い起こしました。
 その秋ですが、かつては稲刈りが終わり、稲わらの香りが漂う頃から秋を感じたものですが、最近はそれが通用しません。温暖化の影響で稲刈り後も夏のように暑いからです。今日的な感覚では、10 月上旬から11月中旬が「美郷の秋」ではないかと私は思います。ただし、秋の本質については時期がずれても短くなっても、変わっておりません。私の思う秋の本質、それは「食欲の秋」であり、「読書の秋」、「スポーツの秋」、「行楽の秋」、そして「芸術の秋」です。
 食欲関係では今年も新米、おいしいです。白米だけでもおいしいこの時期、ついつい食べ過ぎてしまいます。そして、涼しさも相まってか、読書も進みます。いわゆる「はかがいきます」。スポーツは想像の世界ですが、涼しさによって夏よりも取り組みやすくなるのではないでしょうか。行楽について紅は葉の美しさなど、動機には事欠きません。そして芸術。景色や風、香りの変化などによって五感がフル稼働するのでしょうか、芸術に触れた際に何かを感じやすくなるのは、私だけではないように思います。
 その芸術の秋、町では友好都市提携20周年の東京都大田区、防災協定締結10周年の栃木県那珂川町からのご協力を得て、10月17日から11月16日までの期間、「浮世絵版画展広重・月耕・巴水・松亭が描く時代の景色」展を学友館にて開催しております。みなさまにはぜひともこの貴重な機会、会場に足を運んでいただき、芸術の秋を身近に実感するとともに、堪能していただきたいと思います。
 しかし、そういう楽しみの多い秋ですが、熊の出没になかなか心穏やかに過ごせません。熊には熊の事情があるでしょうが、どうか里には出て来ないよう、話しかけたいところです。スマートフォンに「熊語」の翻訳機能が付いていないのが残念です。

 

(広報美郷 令和7年11月号より)

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