コラム「風」令和6年7月
本物の力
秋田県美郷町長 松 田 知 己
みなさんは「痺れた」経験、お持ちでしょうか。正座して30分後の足の痺れ、香辛料たっぷりの料理を食べた後の舌の痺れ・・・ではありません。心が「痺れた」経験です。
先日、私はある本を探すために、乱雑状態の本の部屋で捜索活動を行いました。結果、捜索本は発見できませんでしたが、存在自体を忘れていた、思わぬものを発見しました。とても懐かしいもので、パイヤール室内管弦楽団のコンサートパンフレットです。
私は大学生時代、クラシックギター部に在籍していて、クラシック音楽も聴いていました。バイトで得たお金でコンサートにも行きましたが、その一つがパイヤール室内管弦楽団でした。そのコンサート、当時音響が良いことで有名だった「中新田バッハホール」で開催されましたが、私はコンサート開始前の音合わせの一音でノックアウトされました。バイオリンが発した一音は、レコードやCDで聴く音とは全く違い、表現が難しいですが、厚く丸い音、優しく美しい存在感のある音でした。私は背中に電気が走りました。まさに痺れました。この経験は自分にとって、本物が持つ力を認識する原点、本物に触れる意味合いを理解する起点の一つとなっています。
一方、こうした「本物の力」は、音楽だけではありません。美術だって同じです。本物でなければ分からない色合いや質感があり、何より迫力があります。加えて、そうした作品は空間にも影響力を持ちますので、空間が持つ意味合いをも引き出します。本物が持つ力は確実に多様な分野に存在し、多面に作用すると私は思っています。
そうした本物に触れる機会について、町ではこれまで意識して多くの機会を作ってきました。感性や感受性、ひいては思考や価値観に、知らず影響を与えると思っているからです。そして今月、その一つとして、合併20周年記念特別展『永田萠の描く「みさと」』展を学友館にて開催します。今年制作した町オリジナル絵本「ミサトとセッカのだいぼうけん」の原画をはじめ、多くの永田作品と向き合える機会です。どうか本物が持つ力に触れていただき、それぞれの心に「何か」が生まれることを主催者として心より期待しております。
(広報美郷 令和6年7月号より)