コラム「風」平成29年11月
"先祖返り" への危惧
秋田県美郷町長 松 田 知 己
収穫の秋も最終コーナーに入りました。今年は例年とちょっと違う意地悪な雨の降り方で、収穫作業は泣かされたものと思います。異常気象を連発する今年、どうやら雨の降り方も異常なようです。
そうした気象経過の影響なのか分かりませんが、今年は鉢植えの美郷雪華で気になる現象が発生しました。花の命である「色について、です。ご承知のように美郷雪華はうっすらピンクの白色系ラベンダー品種ですが、今年供給された株の一部でピンク色が濃い花が見つかりました。すわ「美郷桃華に名称変更か」と、冗談とも真面目とも付かぬことを考える始末でしたが、笑うに笑えない話です。
生物に詳しい方はご存じと思いますが、植物には先祖返りという現象があります。先祖の形質に逆戻りする現象です。白色から紫色に戻ってしまったらどうしようかと心配したわけですが、それは絶対に阻止しなければなりません。そこで今後の種苗増殖、色を意識して選抜を行い、先祖返りを排除していくよう調整した次第です。
さてこの先祖返りという現象、植物のみならず人間社会でもあり得ます。過去に戻っちゃいましたという事例です。しかしその大半は、残念ながら喜べない結果になるものと思います。なぜなら、植物における進化論よろしく、人の社会対応の進化も環境に適合する方向に進むわけで、過去に戻るということは即ち「現在と未来の環境に適合していけないという結論に至る可能性が高いからです。
無論そのことは農業においても同様です。転作制度の廃止を受けて、今後自由に水稲を作付したいとの話があるようですが、これは稲作に関する先祖返りです。供給過剰が改善されていない中で先祖返りするとどうなるか。結果は明らかです。高品質で相対取引先が決まっていたとしても、過剰が発生する限り、程度は別にして必ず米価に跳ね返るのが市場原理です。農家の皆様には集荷団体等の意向を踏まえながら、先々を見据えた対応をお願いしたいと思います。
最近、どうも自分(達)中心の保護主義的な動きや事柄が多いように思います。歴史を紐解くと紛争はこうした状況で発生しているようです。歴史に学べば、やはり先祖返りには危惧が付いて回ります。
(広報「美郷」平成29年11月号より)