コラム「風」令和7年10月
作品と空間と願いと
秋田県美郷町長 松 田 知 己
みなさんは、箱根にある「彫刻の森美術館」に行かれたこと、ありますでしょうか。起伏のある広大な山間地の敷地に、多くの彫刻作品が野外に設置されている美術館です。敷地内にはピカソ作品を屋内に展示した、いわゆる”美術館”もありますが、基本は野外アートです。子供が遊べるアート作品もあり、私が行った時は多くの家族連れで賑わっておりました。
彫刻作品は、屋内展示で得られる良さがある一方、野外展示だからこそ得られる良さも、もちろんあると思います。例えばみなさんがよく知っている作品、田沢湖の「たつこ像」(舟越保武氏作品)や十和田湖の「乙女の像」(高村光太郎氏作品)を思い浮かべてみますと、野外だからこそ、そしてあの場所だからこそ得られる作品の魅力があるように思います。作品と広大な空間の一体化で生まれる何か、それが野外展示の魅力ではないかと思います。
さて、美郷町では昨年度より「野外芸術空間創出事業」に取り組んでおります。そのヒントは彫刻の森美術館です。その内容ですが、子育て支援拠点施設を整備している町中央公園エリアに彫刻作品を設置し、癒しや遊びの場として機能している中央公園にさらに芸術的機能を付加しようとするものです。令和10年度末までに計6作品を設置する計画で、作品選考は専門家のご意見を得て行います。そして目的ですが、公園空間で過ごす時間の中で知らず知らずのうちに芸術的感性が磨かれること、とりわけ子供たちは彫刻を通じた遊びで忘れ得ぬ記憶に繋がること、その結果、磨かれた感性や記憶がのちに自身の思慮を深め、行動に繋がるきっかけとなることです。その過程では、「ふるさと美郷」意識が高まることももちろん願っております。
こうした目的や願いを込めた取り組みの第1作目、9月11日に学友館玄関の左側、つまり中央公園の入口周辺に設置しました(▼P17)。みなさんには気軽にご覧いただき、作品に触れてもらいたいと思います。また、みなさんが触れていくことで、もしかして作品に別の命が吹き込まれるかもしれません。頭に触れれば賢くなり、目に触れれば目が良くなり、腰に触れれば腰痛が治る…目指せ、美郷の撫牛(病気平癒などに効力ありと言われる天満宮の牛)! な〜んてね。そもそも作品モチーフがカバですので、欲張りすぎる願いですね(笑)
(広報美郷 令和7年10月号より)