コラム「風」令和7年7月
第3の目
秋田県美郷町長 松 田 知 己
私が手塚治虫先生の本格的なファンになったきっかけは、仙南中学生時代の学校主催で行われた廃品回収でした。当時仙南中学校では、社会貢献の一環として年一回、中学生が集落を回って廃品回収をしておりました。その中には雑誌類も含まれ、特に生徒の興味の的でした。普段は目にしない、いろんな種類の雑誌があるからです。
私がその中で見つけたのが、手塚治虫先生の「火の鳥鳳凰編」。その場で一気に読んだことを記憶しております。もちろん手塚治虫先生のことは「鉄腕アトム」や「どろろ」、「ブラックジャック」などで知っていましたが、深い内容の作品はそれが初めてで、以降、本格的な手塚ファンになった次第です。
手塚作品には印象的な作品が数多くありますが、「三つ目がとおる」もその一つ。三つ目族の末裔が絆創膏で第3の目を閉ざして普段の生活を送っているものの、絆創膏を取って第3の目が機能すると、超能力や明晰な頭脳が働いて事件を解決するというもの。当時は「自分も第3の目が欲しいなあ」と、非現実的なことを考えたものです。
さて、現代に「第3の目があるかないか」と問われれば、私は「ある」と答えたいと思います。超能力はさすがに無理ですが、自身の2つの目以外に状況を察知して対処を考えられる目があるからです。具体的には遠隔カメラや防犯カメラですが、まさに第3の目として機能しています。町では熊騒動を踏まえて、遠隔カメラを準備して人里に近い山林に設置、熊をはじめ野生動物の動向をチェックしているほか、防犯カメラも認定こども園と小中学校に設置し、敷地内外の動向を把握できるようにしております。
こうした第3の目ですが、現在の社会環境を踏まえますと、残念ながら農村部でも必要性を感じるようになってきております。そのため町では、家庭用防犯カメラの設置に補助金を準備いたしました。不安で第3の目が欲しいと考えているご家庭では、どうぞ活用をご検討ください。詳しくは本広報内(P 14)に概要を掲載しておりますので、ご覧ください。なお、財源の関係で本年度限りの補助金となります。かつての朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」。尾上菊之助(当時)が演ずる黍之丞が言う名セリフ、「暗闇でしか見えぬものがある」をまねるならば、「第3の目でしか見えぬものがある」でしょうか。
(広報美郷 令和7年7月号より)