コラム「風」令和6年4月

『ふるさと』意識

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秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 2月末、庭に福寿草が咲いているのを見つけました。「春だな」と思っていたら今度は連日降雪。でも福寿草は健気に花を維持していました。そんな経過のあと、町は合併満20年を迎える年度に入ります。福寿草のしなやかさを手本にがんばっていきたいものです。

 さて、春になりますとアスファルト脇の道端では、日差しに温められた土がほのかに香りを発します。その香りをどう感じるか人それぞれですが、私は春の息吹として好ましく感じます。きっと幼い頃から雪解けとともに外遊びをし、知らず土の香りに触れていたからです。その記憶が私の感性の礎になっていることを思うと、幼い頃の記憶は些細なことも大切であることを、改めて実感いたします。

 申すまでもありませんが、人の価値観はそれぞれの経験と記憶により形成されていきます。そしてそれは、否応なく与えられるものと自ら選択して得るものに大別されると思います。例えば義務教育での経験は、基本的に否応なく与えられるもので、全員が共有する経験と記憶になります。一方、個人として参加する行事やイベントなどは、個人あるいは一部の人しか持たない経験と記憶になります。

 そうした認識のもと、町では立町以来、できるだけ人が集う行事やイベントの開催に取り組んできました。ひとえに多くの町民が集い、経験と記憶を共有することでワンチーム美郷の一体感を徐々に醸成していきたいためです。その結果、一定の形はできてきたと私は総括しておりますが、この春、こうした想いの取り組みをさらにもう一つ重ねます。否応なしに全員が共有する範疇の取り組みです。

 4月1日より、防災行政無線の時報のうち夕方の時報を、唱歌「故郷 (ふるさと) 」のメロディーに変更します。演奏は、町産業大使でフルート奏者の㈱龍角散社長 藤井隆太氏です。選曲の理由は、耳にする音楽の概念を通じ、ふるさと意識をさらに強く持っていただきたいためです。特に子供たちには、「故郷」を聴くと家庭生活や町の出来事などを思い出す、記憶の入口になってもらいたいと願っております。

 歌詞の出だしの「 (うさぎ) 追いし♪」を、幼少期は「兎美味 (おい) し」と思っていた私。うさぎ肉は実際に美味しいのですが、その時の恥ずかしい記憶も実は思い出します。しかしまあ、ここは畑屋うさぎの里。畑屋うさぎの振興に繋がるかも知れない期待を込めて、切り替えます。

(広報美郷 令和6年4月号より)

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