コラム「風」令和4年5月

経験と想像力

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 桜花中心の春爛漫から、土の香りと新緑による春爛漫の頃になりました。この時期独特の軽やかさに、つい車を運転する右足にも力が入ってしまう感じがしますが、注意注意!なるほど、先月の「春の全国交通安全運動」は、いい実施時期だなと思うところです。

 その交通安全運動ですが、今年は「自転車の交通ルール遵守の徹底と安全確保」が重点になりました。法改正に伴う対応ですが、個人的には大変に良かったと思います。4年程前に、歩行中の兄が夜間に無灯火でスマホを操作しながら飛ばしてきた自転車に () ねられ、亡くなっているからです。やるせなさはいまだに整理できていません。こんな辛い思いをする人は増えてもらいたくありません。自転車が加害者になり得ること、意識啓発していきたいと思います。

 そして先月は、別分野の辛い経験をしました。あのウイルス感染症です。「人生には多くの坂がある」旨はよく伺うところですが、まさにその「まさか」でした。断言できませんが、たぶん日中の会議で感染したものです。幸い周辺には感染させず、ワクチンのおかげで症状も軽症で後遺症もなく、そこは良かったわけですが、漠然とした不安感はしばらく続きました。感染者の気持ちは分かりますので、誹謗中傷の防止に今後もできる限り努めていきたいと思います。

 世の中、経験がモノをいうことは間違いありません。一方、全てを経験できる人、したい人は居ません。とすれば、諸事に適切に対処していくためには、経験していないことを経験したように考えられる想像力が必要です。幅が広く深い想像力を身に付けたいところです。そのためには、やはり育む努力が求められます。読書や映画鑑賞などがすぐできる努力だろうと思いますが、その起点に位置するのは、幼い頃の絵本体験です。町ではその一助となるよう、かねてより7~10カ月児に絵本を贈呈するブックスタート事業を展開し、絵本体験の充実に努めてきているところです。

 そして現在町では、郷土愛の視点で子供の想像力や記憶を育む機会になることを願い、オリジナル絵本の制作に取り組んでいます。昨年度は話の筋を固め、今年度は美郷大使永田萠さんから作画していただき、来年度に発刊予定です。乞うご期待、です。

(広報美郷 令和4年5月号より)

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