コラム「風」令和4年3月

判断と根拠

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 数年前、「ファクトフルネス」という本がベストセラーになりました。事実に基づいて世界を見ることの大切さを () いた本で、トランプ大統領在任中ゆえに、特に記憶に残っています。根拠のない思い込みを捨てて、データに基づいて判断することが大切という趣旨ですが、行政の判断にも同様の視点が求められます。温泉愛好者には嬉しくない今回の温泉利用料見直しも、その視点での判断でした。

 論点は温泉維持費の公費負担と利用者負担の割合で、判断根拠は公益財団法人の調査結果でした。その調査では公共温泉は選択的サービスとして、利用者負担7~10割が妥当との見解。一方、町の利用者負担割合は現在約5.5割で、人口減少に伴う利用者の減少や施設老朽化に伴う修繕費の増加を見込むと、今後さらに妥当な負担割合から乖離 (かいり) することが予想されます。そこで今回、維持費の7割を目安に利用料を見直しした次第です。もちろん、客観的な事実(ファクト)として県南の温泉利用料は調査把握し、見直し料金のバランス感は確認しております。私をはじめ誰もが負担増加は望みませんが、致し方ないこととして条例改正の議決をいただきました。どうかご利用のみなさんにはご理解くださいますよう、お願いいたします。

 なお、昨年末決定の水稲作付け継続の補助金も、根拠を持って判断しております。この補助金は米価下落に対する収入補 (てん) 的なものではなく、商工業者に対するそれと同様、あくまで事業継続に対する支援です。そのため、来期作付けに必要な10a当たり種子3キロ分(千五百円)を全額補助としました。ちなみに、米価下落等に対する収入補填は、公費を投入して制度運営されている収入保険とナラシ対策があり、該当する加入者には一定の補填がなされます。

 温泉は私も好きでたまに行きます。湯船に「ふ~」と息を吐きながら浸かり、体が温まっていく時間は最高のひと時です。みなさんも同じではないでしょうか。その最高のひと時、みなさんのご理解のもと維持していきたいものです。ところで、私はそのあとのひと息がもっと好きです。風呂をあがってからの「ふ~」。分かりますよね?うまいんですね、これが。ファクトとは言えませんけど。

(広報美郷 令和4年3月号より)

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