コラム「風」平成29年6月

フカフカを求めて

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 昨年から「○○ファースト」という表現をよく目にします。自分の利益を優先する意味合いですので、一見良さように見えますが、果たしてどうでしょうか。理解の仕方や考え方を誤ると、私はその先に大変な社会が待っているような気がしてなりません。 申すまでもなく、私たちの社会活動は自己完結を許容する分野、事柄が極めて少ないです。事柄の完結には、ほぼ他者との関係性が存在し、結果、他者との折り合いも求められ、それが適切でなければ社会活動はうまく回っていかないように思います。

 一方、○○ファーストという言葉は、現在のところ国や都道府県レベルで言われていますが、レベルを下げると組織ファーストになり、さらに下げると自分ファーストに至ります。考え方を誤れば自己中心、いわゆるジコチューで「自分さえ良ければよい」という考え方に至る懸念があります。残念なことに、現代は価値観多様化をいいことに、何が社会常識かに考えが至らず、簡単に「自分とは違うから排除」というジコチュー化、いわば自分しか見ない心のコチコチ化が広がっているように思います。そのため、○○ファーストに懸念を覚えるのは、きっと私だけではないだろうと思います。

 こうした懸念を払拭するには、何より他者の価値観を受け止める心、いわば心の柔軟性が必要ではないかと思います。そしてそれを高める機会は、人それぞれですが、やはり芸術文化が持つ意味合いは深いものと私は思います。なぜなら芸術文化は昇華性の高い表現分野で、表現者の価値観を感じ、受け止めやすいと思うからです。美郷町がこれまで、学友館や公民館、小・中学校で芸術に触れる機会を意識して設けてきたのも、こうした認識が底流にあります。

 そうした考え方のもと、今月24日からは新版画を確立した川瀬巴水の企画展を学友館において開催します。友好都市大田区のご協力で実現した企画です。みなさんには是非とも足を運んでいただきたいと思います。そして川瀬巴水の世界観を感じるとともに、その価値観を受け止め、心をフカフカにしていただきたいと思います。

(広報「美郷」平成29年6月号より)

このページに関する情報