コラム「風」平成27年6月

想像力を耕す 

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 新聞報道を見るにつけ、「気象変動だけではない、大きな社会変動がきているんじゃないか」と不安になることが最近多くなりました。みなさんはいかがですか。とりわけ、「命」に対する畏敬(いけい)と「生」に対する感受性、双方の欠如が核心にあると思える事件には、心底、恐怖と不安を感じるところです。

 事件背景も犯罪心理も知らぬ者が考えたところで何も解決しませんが、あえて欠如の理由を考えてみると、素人ながら浮かんでくるのが「想像力」の幼稚さです。自己と他者のバランス感ある成熟した想像力が存在せず、自己中心の独りよがりの想像力しか持ち合わせていない、としか想像できません。 

 私たちは、成長過程において他者との関係性、例えば両親や家族、友人等との関係によって自己を規定し、その延長線で自己と他者のバランス感を身に付けていくのだろうと思います。そしてその中核に存在しているのが想像力で、問題はその深浅です。当然、深いに越したことはありませんので、深めるための経験等の不足はやはり問題です。そのために、芸術文化の経験は大切で、古(いにしえ)より芸術文化が大切にされてきた理由がそこにあるように思います。

 というのも、芸術文化には必ずそこに「人の心」が存在するからです。その心に触れることで人は何かを感じ、考え、結果、知らないうちに想像力は耕され、他者とのバランス感が成熟の方向に向かうのだろうと私は思います。美郷町がこれまで芸術文化に接する機会を意識してきた根底にも、こうした芸術文化の力を信じている部分があります。そしてこのことは、人の集合体である美郷町という地域の気風を、必ずや誇り高くするとも思っています。

 こうした熱い想いを持って、今月20日から「歌川広重展」を学友館にて開催いたします。交流自治体である栃木県那珂川町(なかがわまち)の絶大なるご理解とご協力があって実現しました。みなさんには歌川広重と那珂川町のみなさんの心にも触れてもらいたいと思います。広重の構図や色彩、描写風俗、そして那珂川町を通じ、必ずや「想像力は耕される」と信じています。 

(広報「美郷」平成27年6月号より)

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