コラム「風」広報美郷合併10周年記念号

合併10周年を迎えて~途(みち)の中~」

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

『私の歩いたあとには/花が咲いた
私の歩いたあとには/泉が湧いた
私の歩いた時は/荊棘(いばら)の途(みち)であったが
私の歩いた時は/石くれの途であったが
こんな美しい花が/咲こうとは思わなかった
こんな清らかな泉が/湧こうとは思わなかった
ただ一歩一歩省(かえり)みて/静かに歩いた
ただ一瞬一瞬心から/踏みしめて歩いた
私はやはり/いい途を歩いたのだろう
荊棘の棘(はり)にもさされたけれど/石のかけらにも躓(つまず)いたけれど』
 

 明治から昭和にかけて活躍した詩人河井醉茗氏の「歩いた途(みち)」(※)と題する詩です。私が県職員を辞し、町村行政にお世話になる際、上司からの餞(はなむけ)として出会った詩です。この詩に込めた想いに共感し、詩の言葉を信じ、努力の源泉にしてきた詩でもあります。

 またこの詩からは、「歩く姿勢」についても考えさせられます。この詩の主人公は果たしてどういう姿勢で歩いたのだろうかと。省(かえり)みて静かに歩く姿勢、心から踏みしめて歩く姿勢とはどういう姿勢なのか。数多(あまた)の思いの辿(たど)り着くところは、謙虚さを持ち合わせながらしっかりとした意志で歩く姿勢、背筋を伸ばし凛として歩く姿勢です。

 さて、みなさんの期待と不安を背負って歩んできた美郷町が、合併 10 周年の節目を迎えました。みなさんには、これまでの各般の取り組みをしっかりと受け止めていただき、比較的順調な歩みの 10 年間だったと総括できますことに、改めて心から感謝を申し上げます。みなさんの美郷町は、課題を着実に解決しながら望む姿に確実に近づいています。

 やや胸を張ってこうした総括ができる核心には、みなさんの歩く姿勢、言い換えて自治に対する矜持(きょうじ)が存在しています。歩く姿勢は即ち生きる姿勢です。誇り高く生きたいところに必ず受容と寛容、深慮と実践が存在しています。そして困難を乗り越えるためには、そのすべてが必要です。その積み重ね結果が現在の美郷の姿です。

 しかしその歩く「途(みち)」はまだまだ続きます。これからも荊棘(いばら)に刺され、石のかけらに躓(つまづ)くこともあるかも知れません。でも私たちは前に進んでいけます。何故ならこの 10 年の実績があるからです。改めてその自信と決意を確認し合いたいと思います。それこそがこの度の節目に内包される大きな意義です。さあ、背筋を伸ばし歩き続けていきましょう。  

※「岩波文庫 醉茗詩抄」より   

(広報「美郷」合併10周年記念号より)  

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