コラム「風」平成24年4月

明日に架ける橋

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 東日本大震災発災からちょうど1年の先月11日、町では鎮魂のための黙祷のサイレンを流しました。テレビでは各局とも特番が放映されていましたが、その中に宮城県気仙沼市大島在住のある少年と米国海兵隊との交流を取り上げた番組がありました。みなさんはご覧になったでしょうか。

 自宅を流され、精神的に不安定になった少年。それを何とかしたい両親は少年にミッションを与えます。満潮時に冠水する道路をみんなが不便なく渡れるよう、土盛りの橋を作ること。その作業に黙々と勤(いそ)しむ少年を目にした海兵隊員。作業を手伝い、両者で立派な土盛りの橋を完成させます。両親はその橋を「明日に架ける橋」と命名したという話です。

 「明日に架ける橋」。一定年代の方はほぼご存じと思います。サイモン&ガーファンクルの不朽の名曲です。曲名の直訳は「荒れ狂う川に架ける橋」。困難を乗り越えるために架ける橋という意味合いから、「明日に架ける橋」との訳になったのだろうと思います。推移を踏まえた上で、少年の両親の気持ちを忖度(そんたく)すると、いろいろな想いを込めたであろう命名に胸が熱くなります。

 私たちは今、多くの困難に囲まれています。復興はもちろん、少子高齢化への対応や財政問題への対応などなど。どれ一つとっても簡単な困難ではありません。だからこそ私たちは困難の現実を直視し、乗り越えられる橋を架けなければなりません。しかしその橋は、今しか考えない、自分のことしか考えない、一面しか考えないという思慮では設計すらできません。可能な限り未来も考える、周りのことも考える、多面も考える深い思慮が必要です。その上での対応こそが明日に架ける橋になり得る、と私は信じています。

 この4月、いよいよ美郷中学校が開校です。また町内3温泉は同一経営体により再出発です。そして震災ガレキは、町も構成自治体である大仙美郷環境事業組合が処理の具体化に向かいます。困難を直視し、思慮し尽くしての対応です。すべてが「明日に架ける橋」のつもりです。ご協力をお願いします。

(広報「美郷」平成24年4月号より)

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