コラム「風」平成23年12月

TPPに思う

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 「何かを得れば、何かを失う」。いくつかある私の人生訓の一つです。例えばお金と時間。学生時代はお金がなくて時間はたっぷりありました。就職後は生活できるお金は得ましたが、代わりに自由な時間を失いました。例えば原子力発電と安心感。日本は産業振興や生活水準の向上に必要なエネルギーを原子力発電で得ました。しかし今回の事故から分かるように、私たちは未来にわたり安全でありたい生活基盤への安心感を失いました。

 私は、こうした考え方はいろいろなことに適用されると思っています。だからこそ物事の判断の際には、「この判断で何を得て何を失うのか。その上で、得るものが失うものより未来に意義あることかどうか」を充分に思慮し、判断に後悔を付き纏(まと)わせない努力をしてきているつもりです。

 さて、TPP。「交渉参加に向けて関係国との協議に入る」との表明ですが、この表現を私たちはどう解釈すればいいのでしょうか。仮に参加を前提にしているとするならば、国は得るものと失うものをきちんと思慮しているのでしょうか。その上で、参加によって得るものが失うものより日本の未来に意義あると整理できているのでしょうか。報道を頼りに判断すれば、残念ながら私には整理されているようには見えません。一方、私は現状のままでいいとも思っていません。私が入手できる狭い範囲の情報に頼れば、現状で推移した際の未来にも明るい展望を見出(みいだ)せないからです。

 いずれ、参加なのか不参加なのか時間の経過とともに分かってくると思いますが、どちらにしても国会議員の方々には、このたびの問題で得るものと失うものについて、将来に展望を見出せる思慮とともに私たちに提示してもらいたいと思います。その上で、これまで繰り返してきた制度や政策での急ハンドルを避けてもらうようお願いしたいと思います。私たちはその思慮等を踏まえ、向かうべき方向に取り組みが遅きに失したとならないよう、できるだけの対応に努めていきたいと思っていますので・・・。

 今回は国政へのお願いでした。ちあきなおみさんの「四つのお願い」のようには欲張りません。「一つのお願い聞いて、聞いてくれたら〜」です。

(広報「美郷」平成23年12月号より)

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