コラム「風」平成22年9月

突然変異の妙

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 ここしばらく、随分と暑い日が続きました。連日の30度越えには、体も心も「勘弁してよ」でした。「地球温暖化のせいで毎年これからこうなるの?」と不安になるとともに、「農作物もこれからは種類が変わってくるかもな」と思ってしまうところです。与えられている自然環境の中で生活しなければならない私たちにとって、「環境適応力が問われる世紀が来るかもしれない・・・」なんてSF的な思いも頭をよぎるところです。

 さて、環境適応ということで言えば、私はすぐ水稲品種「亀ノ尾」を思い起こします。「冷害に耐え得る稲を」ということで、明治期に山形県の阿部亀治さんという農家が、水温が低い田んぼの水口(みなくち)まわりで生育が良好な1株を見つけ、育成した品種と言われています。耐冷性に関して従前の品種に突然変異が生じ、低温環境でも生育できる環境適応性を持った稲が偶然生まれたということでしょう。

 こうした突然変異、実はいろんな作物で生じています。美郷のシンボル、ラベンダーも例外ではありません。ラベンダーは紫色が普通ですが、その中にほぼ白色のラベンダーが出現しています。突然変異です。それをこれまで大切に育て、ほぼ遺伝的に固定していることを確認して、町では今年4月、国に品種登録の出願をしました。品種名称は「美郷(みさと)雪(せっ)華(か)」です。先般、その出願を受理したことが官報に公示され、品種登録に向けた手続きが動き出しました。今後、品種登録の要件の審査があり、問題がなければ品種登録される運びです。なんと、美郷町が町独自のラベンダー品種を保有するという可能性が高まったということです。農学部卒業の私としては、品種の権利を保有することの意義は分かっているつもりですので、本当に喜んでいます。美郷町の情報発信にも充分利用できます。

 偶然の賜物の突然変異に意味を求めることは難しいと思いますが、仮に何かに適応する、あるいは対応するための変異だったと考えると、それが白色であったことに意義を感じています。というのも、美郷が誇る「水」に「白」を足すと、「泉」になるからです。

(広報「美郷」平成22年9月号より)

このページに関する情報