コラム「風」平成21年12月

感受性と環境

秋田県美郷町長 松 田 知 己 

 「あ〜、やっぱり仙南の空気だ」。先月中旬、修学旅行から帰ってきた仙南中学校の生徒が、校舎前でバスから降りた直後に口にした言葉です。寒空のもと、薄手のウインドブレーカーで震えて待っていた一保護者の私は、瞬間、心が温まりました。

 「物理的にも心理的にも、都会でいろんな空気を吸ってきたんだろうな」。そんな想いとともに、こういう感受性で地元に帰った安堵感を表現できる子供たちが目の前にいることに、私は何とも言えない嬉しさを覚えました。

 感受性は人に言われて何とかなるものではありません。また勉学で何とかなるものでもありません。すべては一人ひとりの経験と思慮、そして日常生活の空気で無意識に育(はぐく)まれるもの・・・と私は思っています。だから、私は嬉しかったのです。生徒が心豊かに成長していること、そして日常がしっかりしていることの証(あか)しでもあるからです。

 その感受性、育んでいくにはやはり環境は大切です。学校、家庭、地域それぞれにおいて、子供たちが我慢も含めていかに経験を積みやすい環境か、また思慮を深めやすい環境か、さらに日常がいかに平穏な環境にあるのか、そこが大切だと私は思っています。

 現在進行中の学校統合は、まさにこうした環境整備の一環です。勉強においても部活動においてもいろんな選択肢があって、一定人数のもとで切磋琢磨し、多くの人間関係を築きながら経験を積んでいく。そしてその過程において思慮を深める。またそうした生活が、望ましい施設と設備の中で静かに流れていく。こういう環境が、子どもたちの豊かな感受性を育んでいくと私は信じています。みなさんには、町の学校統合の取り組みに改めてご理解をお願いするとともに、家庭や地域におけるご配慮もどうかお願いいたします。

 ドロシー・ロー・ノルト博士の名著「子どもが育つ魔法の言葉」に次のような言葉があります。「和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世の中はいいところだと思えるようになる」。家庭という部分を学校や地域に変えても成り立つ、至極の名言です。

(広報「美郷」平成21年12月号より)

 

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